2017年10月6日に、岩波書店からイタリア人精神科医フランコ・バザーリアの翻訳を上梓しました(フランコ・バザーリア著、大熊一夫・大内紀彦・鈴木鉄忠・梶原徹訳、『バザーリア講演録 自由こそ治療だ!――イタリア精神保健ことはじめ』、2900円税別)。イタリアの精神保健改革やバザーリアをめぐっては、日本でもまとまった本がでてきましたが、バザーリア自身の著作はこれまでありませんでした。そのため本書が日本初のバザーリア本となります。
本の内容は、晩年のバザーリアが1979年のブラジルで行った伝説的な名講演を収録したものであり、1980年に急逝したバザーリアの最初で最後の連続講演となったものです。イタリアの精神保健改革がどう進んだかという経緯やノウハウのみならず、なぜイタリア社会全体をまきこんだ運動となっていったのかが、バザーリアの口からとてもわかりやすく語られます。当事者の人権擁護、地域密着型の取り組み、メディアの重要性、医師と看護師の関係、私立精神病院の問題に加えて、1970年代当時のイタリアのさまざまな社会運動(フェミニズム運動、労働運動など)との接点、格差をめぐる社会問題、不可能を可能にするための「実践の楽観主義」のビジョンなど、いまの日本にもそのまま当てはまる問題がバザーリアの独自な視点から鋭く分析され、彼独自の回答が示されます。そのため「読んで知識を増やす」だけでなく、「読むといろいろと考えさせられる」内容となっています。
翻訳にあたっては、ジャーナリスト、特別養護学校の教員、社会学の研究者、精神科医という、職種も年齢もまったく違う4人が「この本をぜひ世に送り出したい!」という一心でまとまり、意見をぶつけあわせながら多職種連携チームとして何とか完成までこぎつけました。本書が日本の精神保健を捉えなおす一助になるとしたら、訳者全員にとってそれに勝る喜びはありません。ぜひみなさまにお手に取っていただければうれしいです!
なお本書の底本のイタリア語版『フランコ・バザーリア ブラジル講演』は、すでにポルトガル語、スペイン語、ドイツ語、フランス語、ギリシャ語に翻訳されています。下記の写真は、他国語に翻訳された本の装丁です(2017年8月16日、ローマのマリア・グラツィア・ジャンニケッダさん宅にて大熊一夫さんが撮影)。
訳者 鈴木鉄忠