ドキュメンタリー映画上映「精神病院のない社会」

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2017年10月28日、ジャーナリストの大熊一夫さんが初監督のドキュメンタリー映画「精神病院のない社会」が関西で初上映されました。お昼から冷たい雨が降り始めたにもかかわらず、午後1時30分の開演時間には、200名収容のエルおおさかホールが埋め尽くされ、補助イスが出るほどの参加者が集まりました。企画運営は、大阪府下の精神科病床を持つすべての病院への訪問活動を1998年から定期的に行っており、この映画にも何人かが出演されている認定NPO大阪精神医療人権センターでした。そしてドキュメンタリー映画を大熊さんとともに作成した西村きよしさんご本人も、ドイツからかけつけ、イベント後半のトークショーでお話されました。

ドキュメンタリー映画の上映に先立って挨拶をされた大熊さんご本人は、「この映画はカンヌ映画祭に出展されるような出来ではありません。ぜひ映画のメッセージをくみとっていただきたい」と述べられました。そして上映された映画は、ある主婦が夫のドメスティック・バイオレンスに耐えかねて警察に通報したにもかかわらず、警察の方は「妻が自殺しようとしている」という夫の虚偽の発言の方を信じてしまい、結果として主婦の方が精神病院に強制入院させられてしまった事件から話が始まります。そして大熊さんが精神病院に潜入ルポをした1970年から、現在に至るまでの日本の精神病院の不条理とその変わらなさを、日本とイタリアの関係者へのインタビューを交えながら考えさせられる内容となっています。

映画の詳しい内容はぜひ実際に観ていただくとして、ここでは大熊さんが映画制作と同時並行で作業していたバザーリアの翻訳『バザーリア講演録 自由こそ治療だ!』との接点を書き記しておきたいと思います。10月9日東京での上映イベント集会「日本のMattoの町をどうする?」、そして10月28日関西での初上映に参加しながら、私は「もし、ここにバザーリアがいて、大熊さんの映画を観たとしたら、どのようなことをいうだろう?」と想像しました。そしてそれにぴったりの箇所が「13章 精神医療と政治―バルバセーナ精神病院」にあります。バルバセーナというのは、1979年当時、1万8千万人の入院患者を収容するブラジル・サンパウロ最大規模の精神病院があった場所です。バザーリアは、バルバセーナ精神病院の不条理を描いたドキュメンタリー映画を観た後、重い口を開き、このように話し始めました。

「この映画を観て、非常にショックを受けていることをみなさんに告白します。映画が描いているテーマについて話さなければなりませんが、とても気が重いのです。… この映画が、作品として良いか悪いかはわかりませんが、それは私には興味がありません。こうした状況では、映画の美的な問題など何の価値もありません」

おそらくバザーリアが大熊一夫さんのドキュメンタリー映画『精神病院のない社会』を観たとしたら、このように言ったのではないかと想像します。「カンヌ映画祭に出展するような作品ではない」と大熊さんが言ったとしたら、バザーリアは「映画の美的な問題など何の価値も」なく、むしろ別のことにこそ問題の核心があると、答えたでしょう。では何が最も問題なのでしょうか。

「この映画は、「平和に潜む犯罪」といえる事態の証拠です。そして、その証言でもあります。私たちが本当に裁かなくてはならないのは、あの不運な人たちに、こうして生きることを受け容れさせ、それを余儀なくさせているすべての人たちです」

映画のメッセージは、「『平和に潜む犯罪』の証拠」であり、日本における「証言」だとバザーリアは答えています。「平和に潜む犯罪」とは、バザーリアがトリエステの最後の年月にオンガロ夫人とともに編集した本のタイトルであり、戦争犯罪として裁かれるような暴力や虐待が、まさに「平和」「平時」においても精神病院で日々行われていることを意味しています。まさに誰も精神病院のなかで行われていることに見向きもしないことによって、多くの人びとが「平和に潜む犯罪」に加担していることを気づかせることに、映画の大きな意義があるといえます。
さらにバザーリアは、観賞して終わりではなく、具体的な一歩を踏み出すべきだと訴えます。

「私たちは今回の講演会を締めくくるにあたって、この場に集まっています。ここで私たちは誓いを交わすべきであり、みなさんが一丸となって「マニコミオ反対! 暴力反対! 蛮行反対!」と声をあげなければなりません。私たちはバルバセーナについての映画を観ました。もうこれ以上、この酷い現実を受け容れたくないなら、アンデルセン童話の少年のように、裸で歩き回る王様を見て、「王様は裸だ! 王様は裸だ!」と叫ばなくてはなりません。今回の場合は、[王様にあたるのが]精神医学です。こうした精神医学を倒すために、そして苦しむ人たちの要望に応えながらすべての医療福祉を変えるために、私たちは闘わなければなりません」

アンデルセン童話の子供が「王様は裸だ!」と叫んだように、映画を製作した大熊一夫さんと西村きよしさん、大阪の上映イベントを企画した大阪精神医療人権センターは、日本の精神病院の不条理を社会に訴えてきました。「どうせ何をやっても変わらない」という「理性の悲観主義」ではなく、「できることをひとつでもやりたい」という「実践の楽観主義」が、大阪のイベントに集まった200名超の参加者を結びつけていたと思います。

171028 大阪集会チラシ

(上映イベントのチラシ)

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