現在に生きる「バザーリアの遺産」―トリエステ精神保健サービスのいま(2)

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「バザーリアの遺産」がどのように実現されたか。第1回に続いて、トリエステ精神保健局長のロベルト・メッツィーナさんの英語論文*から、その中身を見ていきたいと思います。トリエステではどのような地域精神保健サービス体制がつくられたか、について説明されています。なかでも病院に代わる地域医療の受け皿となった「地域精神保健センター」はどのようなサービスを行っているのか、それがどのような“哲学”で運営されているのか、の2点が強調されています。いわば「バザーリアの遺産」が、トリエステ地域精神保健のHOW(トリエステ・モデル)とWHY(「入院hospitalization」から「歓待hospitality」へ)として具体化されていったのです。

* メッツィーナさんが2014年に学術専門誌『Journal of Nervous and Mental Disease』に発表した英語論文「越境するトリエステ型地域精神保健サービス――リカバリーと市民権を擁護」

トリエステ・モデル
トリエステ精神保健局の現在の組織は、サン・ジョヴァンニ精神病院の脱施設化(Deistituzionalizzazione)から生まれてきたものである。当時の病院には約1200名の入院患者がいた。精神病院を段階的に閉鎖していくなかで、それに完全に替わるような地域サービス網が作られた。今日では次のようなサービスを備えている。
 4か所の地域精神保健センター。各センターは住民5万~6万5000人のキャッチメントエリアを担当。24時間オープン。各センターに4~8ベッドあり。
 市内に1か所ある総合病院精神科に6ベッド。主に夜間救急時に使用。滞在期間は非常に短くて、多くは24時間以内。
 リハビリテーションと住居サービス。職員と非営利組織(NGOs)との連携係がいる。グループホーム、最大24時間ケアまでを備えた異なるレベルの支援付き住居施設、そして2か所のデイケアセンターを合わせて、約45ベッドを管理運営。

精神保健局は15の社会協同組合のネットワークとも手を結び、NGOが提供する多くのプログラムを奨励している。例えば、利用者と介助者のアソシエーション、会合形式のセンター、自助センター、文化および教育活動を提供する資格をもったワークショップ、専門職研修、権利と市民権に関する文化啓発がある。精神保健局は人的資源として、約210名の職員を擁している。これには、住居と地域生活のためのNGO支援サービスは含まれない。

年中無休24時間オープンの地域精神保健センター
地域精神保健センターは明確なキャッチメントエリアに責任を持つ。各センターは一つのチームによって運営され、約30名の看護師、2名のソーシャル・ワーカー、2名の心理士、2名のリハビリテーション専門士、4~5名の精神科医からなる。年中無休の地域精神保健センターは24時間オープンである。4~8ベッドを備えている。夜間シフトの時間帯は、当直として2名の専門職員がいる。各地域精神保健センターは担当のキャッチメントエリアのなかで、全ての精神医療のニーズに直接応える。そこには急性期の状態も含まれている。そのときは特別なサービスに預けることなく、予防・治療・リハビリテーションという観点から対応する。
年中無休24時間オープンの地域精神保健センターは病院臭のない住居で、通常は2~3階建ての建物である。このセンターは「クライシス・センター」ではない。誰もが気軽にアクセスできるような、多機能空間とでもいうべきものである。そうした環境からつくられるアットホームな雰囲気は、「社会的な住み処」とみなされるよう、職員もそう心得ている。そこでは利用者の関心とニーズに応じて、柔軟かつ理にかなった話し合いが大事にされる。多職種チームは24時間交替で、宿泊を許可されたゲストのケアから、外来患者やアウトリーチ活動まで、すべての機能をカバーする。
地域精神保健センターには予約は不要。通常は1~2時間以内ですべての要求に応じる。待機リストはない。受付業務は、全職員が交替で受け持つ。要求の受け入れは症例よりも「当人の抱える問題」に基づく。問題が急を要する場合、たとえそれが当事者ないし介助者の主観的な見方であろうが、すぐに対応する。
午前8時から午後8時まで、地域精神保健センターは直接的かつ非公式的に患者にベッドの提供を許可することができる。夜間のクライシスには総合病院救急部が対応する。ここで精神科の診察を受け、必要であれば患者は総合病院精神科が引き受ける。そこへの逗留は延長しても24時間以内である。通常は翌日に地域精神保健センターのチームが総合病院精神科を訪れ、ケア・プランを策定する。選択肢としては、もし患者が小休止を取ったり家庭環境から距離を置いたりする必要があれば、年中無休の精神保健センターへ移ることになる。もしくは、単に、外来ケアや在宅支援のこともある。
地域精神保健センターの年中無休24時間オープンの受け容れ態勢は、普通は、利用者、チーム、そして介助者との間でのインフォーマルな合意に基づく。合意に達するのが難しいはげしい衝突の状況では、チームは膝を突き合わせた交渉(assertive negotiations)で対応する。ここでは強制治療令(英:Compulsory Psychiatric Treatment Orders略してCPTOs、伊:Trattamento Sanitario Obbligatorio TSO 鈴木註:強制入院もしくは強制入所)を適用する代わりに、何時間も費やし、重要な人物を巻き込んだ数々の試みが法を順守しながら行われる。利用者は「患者」ではなくて「客(英:guests、伊:ospiti)」と見なされ、拘束なしの往診を受けることもできる。利用者は普段通りの生活を送り、その環境との接点を保ち続けるように勧められる。専門職とボランティアは毎日利用者とともに地域で活動する。この仕事は地域精神保健センターで行われ、さらにセンターは利用者が外来として毎日のケアとリハビリテーションを行う場所にもなっている。その結果、クライシスは日常生活の中で和らげられ弱められることになる。またある期間、デイホスピタルへの参加が継続して行われることもよくある。そこでは治療的関係を強化し、実行中のケア・プランを推し進めていくことに主眼が置かれる。地域精神保健センターへの平均入所許可期間は10~12日間である。患者のなかでリハビリテーション・プランの再策定を求める人や、社会的ニーズが一時的に満たされていない(例えば、路上生活)人の場合には、さらなる事態悪化や社会的放置を阻止するために、地域精神保健センターで策を講じることもありうる。
「入院(hospitalization)」から「歓待(hospitality)」への移行(Mezzina and Johnson, 2008)には、従来型サービスを凌駕する大きな利点がある。地域精神保健センターは24時間機能している明確な拠点である。職員はより柔軟に交替での仕事をこなし、より幅広い要求に応える。患者は、資源と選択肢のシステムにすぐコンタクトする。同一チームがケアの継続性を保証する。入院許可と退院許可は官僚的な手続きにこだわらずに必要なときに手配される。こうして入院(hospitalization)と結びついたスティグマは大幅に減ることになった。地域精神保健センターのケア・プロセス、その中でも特にクライシスへの対応については、本稿の目的からは外れてしまうが、別稿で詳細に論じている(Dell’Acqua and Mezzina, 1988a, 1988b; Mezzina and Johnson, 2008)。これまでに指摘してきたことだが、社会的なネットワークを通じた介入、特にケア・プランのなかに家族とその他の介助者の参加が、心理教育プログラムであれ相互扶助グループを通じてであれ(Dell’Acqua et al., 1992a; Dell’Acqua and Mezzina, 1991; Dell’Acqua et al., 1992b)、個々人と地域の社会資本(social capital)を高めると同時に、社会的放置を阻止するカギになる(Terzian et al., 2013)。

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